【小説】アウトサイド オブ ソサイティ(あとがき)今までと違うこと

あとがき

この物語を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

実はこの作品は、僕が生まれて初めて「完結」させることができた物語です。
小学六年生の頃、図書室で読んだホームズに感化されて以来、何度も物語を書き始めては、そのたびに投げ出してきました。
僕のノートは、未完成の物語の墓場で埋め尽くされています。
それでも今回、初めて最後まで書き通すことができました。

今までと、何が違ったのか。
それは、この物語と再び向き合うことになった状況にあるのかもしれません。

昨年末に母が他界し、実家の整理に追われる中で、僕は自分の子ども時代の古い日記を再読することになりました。
最初は読書感想のような内容でしたが、高校生にもなると、それは青い心情を赤裸々に吐露する「お悩み日記」の様相を呈していました。
今の自分にはあまりに遠い過去のことで、まるで他人のことのように、しかし興味深くそのページをめくりました。

日記の中の少年は、常に何かと葛藤し、浅はかな考えだけでジタバタしていました。
誰かに相談する気配もなく、ただただ悩んでいる。
「かわいそうだが、愚かな奴だ」というのが、大人になった僕の正直な感想でした。

この小説のアイデア自体は20年以上前に着想し、10年ほど前にも一度筆をとったものです。
もちろん、その時も途中で挫折しました。
理由は、ごく普通の会社員である大の男が、高校生の物語を書くことの「リアリティの欠如」です。
書き手である僕自身が、その心情を全く感じ取れず、筆が止まってしまったのです。

それが今回書き通せたのは、母の死をきっかけに過去の日記と向き合い、あの頃のリアリティを少しだけ取り戻せたからだと思います。
そして何より、日記の中で悩み続けている哀れな少年を、大人の自分が物語の力で救済してあげたい、という気持ちが生まれたからです。
開いたままになっていた彼の心の環を、この物語で閉じてあげたい。
それが、最後まで書き続けるための、何よりの推進力となりました。

主人公の優一は、未成熟で弱々しい少年です。
友人や先輩、先生といった周囲の大人たちから、多くの優しさや理解を向けられているにもかかわらず、本人はその恩恵に気づかず、世界との違和感にただウジウジしています。
そんな彼が、一枚の絵の中の女性「イディア」に恋をすることで、自分が知らぬ間に降り注いでいた陽射しの存在を知り、自らの内なる真心と誠実さを見出していく。
この物語は、今の大人の僕が、日記の中の子どもの僕に、一番伝えたかったことなのかもしれません。

正直に申し上げて、執筆中は自らの拙さに何度も筆を折りたくなりました。
しかし、「結果ではなく、プロセスがすべてだ」と思い直し、机に向かい続けました。
これもまた、作中で画廊の浅野が語る「真心から生まれる誠実さ」のひとつだったのかもしれない、と今では感じています。

とにかく、最後まで書けて、本当に良かった。
繰り返しになりますが、この拙い物語に最後までお付き合いいただき、心から感謝申し上げます。
ありがとうございました。

2025年8月

コメント

タイトルとURLをコピーしました