【小説】あの夏の光(50)『あとがき(たった一人のための物語)』&『サウンドトラック(あの夏の光)』

小説

あとがき:たった一人のための物語

まずは、この物語を最後まで見届けてくださった読者の皆様に、心からの感謝を申し上げます。
本作は、僕にとって人生で二作目となる小説です。
一作目と同様に、かつて一度挫折し、書きかけのまま放置されていた古い原稿を、今の視点でもう一度すくい上げ、骨組みからすべて書き直しました。

この物語を形にしようと決めたきっかけもまた、一作目の時と同じく、約2年前に他界した母にあります。
母は書道の先生をしていました。
自宅に作った小さな教室で、近所の小学生たちに習字を教えていた母には、ある「ささやかな儀式」がありました。
生徒が小学校を卒業し、書道塾を巣立っていくとき、母は必ず、ある一冊の本をプレゼントしていました。

それは、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』でした。

母が旅立ってから、ふとその習慣を思い出し、あの「あかがね色の本」を中心に据えた物語を書きたいと考えていました。
現実と物語が鏡のように交錯し、響き合う――そんな『はてしない物語』へのオマージュを込めた一つの”形式”を、僕なりに編み上げてみたかったのです。

本作は、蒼太が生きるパートを一人称で、作中作(『リクのスケッチブック』)を三人称で構成しました。
一人称だったこともあり、蒼太という一人の人間を通して自分の内面を掘り下げる作業は、予想以上に深く、書いていてエネルギーを消耗するようなことが何度もありました。
内と外を隔てる壁を感じて、斜に構えていた時期が彼同様、僕にもあったからです。
誰かと本当の意味で繋がりたいと願いながら、その一方で、傷つくことを恐れて自分を守るための皮肉や理屈ばかりを積み上げていた――蒼太と同じような、美化されない孤独の中にいた頃の自分と向き合うような感覚でした。

自分の傲慢な自意識、醜い嫉妬や自己正当化を図る心の弱さ、商業ベースで動く世の中の仕組みや、表層を取り繕っているように見える世俗を嫌う狭窄した独りよがりの正義感、そして、人からもらった愛情に対しての取り返しのつかない失敗など。
それらを思い出し、直視して分析し、構造化して言葉へと落とし込んでいく作業は、過去の自分自身と対峙し、肉薄するような感覚がありました。

そして、同時に思い起こしたことがあります。
それは、そんないびつで未熟な僕を見捨てずにいてくれた人たちの存在です。
蒼太にとってのひかり、柳先生や葵がそうであったように、僕にも、僕の孤独という名のガラスを外側から叩き続け、対等な体温で向き合ってくれた人たちがいたのです。
これも、未熟さゆえですが、そんな人たちの気持ちに、僕はちゃんと応えてこれずにいたと思います。
本作は、そんな僕を孤立から引き戻し、人と向き合う場所へと連れ出してくれた人たちへの、精一杯のお詫びと感謝を込めた物語でもあります。

物語の後半、僕は「どんな形にしろ、作中のふたりを幸せにしてあげたい」と強く思いながら書き進めていました。
それは、彼らを生み出した者としての「責任」のようなもので、図らずも作中の蒼太が感じていた「物語を完結させる責任」と重なるものがありました。

この物語を描くことは、自分のあまり見たくない部分を削り取って原稿に載せているような感覚がありました。(直視することすらできず、表現しきれなかった部分も、多分に残っているはずですが……)

けれど、そんなしんどいながらも、物語の中で蒼太とひかりが「自分の形式」を見つけ出し、新しい一歩を踏み出した姿を見届けたことで、僕自身もまた、一つの大きな区切りを迎えられたような気がしています。
今の僕にあるのは、しんどさを越えた先にある、静かな満足感です。

母は子どもたちに、どんな気持ちであのずっしりと重い『あかがね色の本』を手渡していたのでしょうか。 ぼんやりとですが、僕はその真意をずっと考えていました。
今、この物語を書き終えて、母は子どもたちに『自分の物語の作者は、自分自身であること』を伝えたかったのではないか、と思うのです。
今となっては確かめようのない憶測に過ぎませんが、あの本を受け取った子どもの一人として、僕はそう感じています。
だから、この終わらない物語のひとつを、亡き母に。

今回、僕が蒼太という鏡の中に、ずっと抱え続けてきたかつての自分を見つけたように、この物語が、誰かの孤独な夜に寄り添うささやかな”月の光”となり、その誰かの『たった一人の物語』を照らす一助になれば、これ以上の幸せはありません。

最後になりますが、1年もの長い間、今日までお付き合いいただいた皆様、そして僕を見捨てずに光をくれた方たち(もう会えない人たちも含め)に、重ねて深く感謝申し上げます。
ありがとうございました。

【追伸】毎月末、一方的に更新案内を送らせていただいた皆様へ

しつこく通知をしてしまい、本当に申し訳ありませんでした!
実は月末に案内を送るという「締め切り」こそが、執筆を継続するための最大のモチベーションでした。
皆様がいてくださったからこそ、最後まで書き終えることができました。
本当にありがとうございました。

寄せられたレスポンスの中に「いつ書いてるの?」という質問がありました。
一年間、予定のない土日祝日は近所のドトールに籠もるのが僕のルーティンでした。
最初はコーヒーを飲みすぎてカフェイン過剰摂取で体調を崩すという失敗もしましたが、途中からルイボスティー(カフェインレス!)に切り替えてからは非常に快適でした。

週に1.5話というサイクルで書き進めるうちに、すっかりこのリズムが体に染み付いてしまいました。
誰に頼まれたわけでもないのに、週末のドトールで「締め切りが……」と勝手に一人で焦っている姿は、我ながら滑稽だったと思います。
ただ、この不格好なルーティンが、いつの間にか僕の生活に欠かせない確かなリズムになっていました。

話は変わりますが、古いロック好きのただの戯言として笑ってほしいのですが、僕のこれまでの執筆の感覚をビートルズのアルバムに例える(誠におこがましいと承知のうえ💦)と、こんな感じなんです。

1作目は『Please Please Me』や『With The Beatles』(1st & 2nd)のように、書きたいことをただ衝動のままに書いた感じでした。
そして今回の2作目は、『A Hard Day’s Night』(3rd)です。
全曲オリジナルで駆け抜けたあの瑞々しい時期のように、構成や仕掛けを意識しつつも、伸び伸びと書けた手応えがあります(でも、ちょっと気負っていたかな……)。
今取り組んでいる3作目は、少し肩の力を抜いて、よりじっくりと落ち着いて仕上げていく……『Beatles For Sale』(4th)のような位置づけを目指しています。 

なにが言いたいかというと、実は今もこのサイクルで、新しい物語を書き進めているということです。(性分なのでしょうね💦)
とはいえ、このまま毎月ご案内を送り続けたら、さすがに「相当ヤバい奴になっちゃう」ので、自粛しようと固く決めてます(ご安心ください)

もし次回も案内を受け取ってくださる方は、ぜひ気軽にお声がけください☺️
新しい物語を、またお届けさせていただきます。 (本当にご無理のない範囲で大丈夫です!まじで!)

それでは、これまでのお付き合い、本当にありがとうございました。
また!

【おまけ】
作中に登場するカフェについて

実はあの場所は、かつて国立に実在した「ガラス玉遊戯」というカフェがモデルになっています。
環境音楽やどこか変わった曲が静かに流れる、名物のカレーが美味しいお店でした。
もう20年以上も前に無くなってしまいましたが、あの独特の雰囲気がとても気に入っていて、ずっと僕の記憶の奥に残り続けていました。
物語の重要な場所として、当時のイメージも名前も、そのまま使わせていただきました。

2026年9月満月の夜に

サウンドトラック『あの夏の光』

これまでダイジェストの回&最終話でリリースした曲を、アルバムとして、ひとつにまとめました。
01)夢のひとつ(主題歌)
2025年7月、実家の片付けのために帰省した際、かつての友人たちと旧交を温める機会がありました。その時間が、この曲、そして本小説のインスピレーションの源泉です。 作詞作曲は同年夏から秋にかけて、小説の書き出しと並行して進めました。 歌うのが下手くそで、歌入れまで丸二ヶ月を要しました。当初は家族が不在の時間を狙って自宅で録音していましたが、(自分で勝手に決めたw)締め切りが迫るにつれ、そんな贅沢は言っていられません。家族が在宅している時間でも、洗面所に籠もってなんとか録音を完遂しました。 そんな必死の作業の甲斐あって完成したこの曲ですが、ある日、ふとリビングから12歳の息子が口ずさむ、この曲のメロディが聴こえてきました。 自分の作った曲が、日常の風景に溶け込んでいる。その事実に気づいた瞬間、なんとも言えない嬉しさと、同時にこそばゆいような恥ずかしさが込み上げてきました(息子の方が上手く歌ってましたw)


02)美しいひと
この曲は、7、8年ほど前に作曲しました。その背景には、重なり合う二つの記憶があります。一つは、パーキンソン病を患い、認知症が進む中で特別養護老人ホームに入所していた母との時間です。面会に訪れたある日、「今すぐここから連れて帰ってくれ」と母が言い出しました。その懇願を振り切るしかなく、施設を後にしたときの自分の手のひらにまだ残っていた母の温もりの感覚が、この曲の原型となりました。もう一つは、闘病中だった高校時代からの友達を見舞った際の光景です。献身的に彼を支え続けるパートナーの愛情と、その想いを全幅の信頼で受け止める彼の眼差し。その静かなやり取りの中に、言葉にはできないほど切実な「何か」を感じ、彼の心情を想像しながら作詞しました。
母への気持ちと、友達とそのパートナーへ捧げる気持ち。二つの記憶が溶け合い、静かな想いを表現したかった一曲です。


03)愛の光
2025年の秋、母の初めての命日を目前に控えたある早朝に作曲しました。 夜中に母の夢を見て目が覚めて、すぐにギターを掴んで作ったメロディが、この曲の始まりです。当初は母へのレクイエムのような響きを模索していました。けれど作り直していくうちに、たとえ夢のなかだけであっても、今も自分を照らす光を信じるような、蒼太がひかりに感じる救いのような、ひとつの「愛の歌」へと形を変えていきました。……ところで、いつものことなのですが、自分で歌うのが難しいメロディラインになってしまいました。特にサビの高音域を録音するときは、近所迷惑にならないか冷や汗ものでした💦


04)あなたを僕は愛してる
1999年の春、今から27年前の若い頃に作った曲です。昨年からの小説執筆のきっかけとなった古い日記や音源を紐解いていた際、作りっぱなしのまま眠っていたこの曲を発掘しました。当時の自分を振り返ると、無自覚な痛みや苦しさが多かったように思います。若さゆえの鋭い感情が、不器用なメロディや、装飾のないただただ真っ直ぐな言葉にそのまま刻まれている気がします。今の自分には書けないであろう、その『迷いのない痛み』が、物語の中の蒼太と重なったため、挿入歌として作り直しました。27年の時を経て、再び光をあてることができた意義深い一曲です。


05)夢のひとつ(Two of Us version) / リプライズ(Reprise)
主題歌(01)の別バージョンです。 物語の結末にふさわしい、いきいきとしたリズムを添えたいと思いました。蒼太とひかりが、ようやく見つけた形式と、歩み出したその先にある日常。そんな余韻を感じながら、この物語を閉じたいと思って作りました。……ずっと憧れていたw「リプライズ」‼️という形式を試すことができて、大満足です、やったね〜☺️

06)はてしない物語(Endroll)
2026年春、本作『あの夏の光』の全体像が見えた瞬間に着想を得た曲です。この曲のテーマそのものが物語を、この結末へと運んでくれた気がします。またしても「自分の歌唱スキルを無視したメロディ」になり、僕の歌えないメロディを作る困ったクセが発動してしまいました。「こんなの無理じゃね……」と思いながらも、自分で歌うという矛盾💦(メロディ自体、すごく気に入っているんですよねぇ)
お聴き苦しいかもしれませんが、不器用な彼らの物語の最後、エンドロールとして耳を傾けていただければ幸いです。


【ありがとうございます!】
「この物語とリンクするような音楽があったらいいな」と漠然と考えていたことが、いつの間にか形になり、ひとつのアルバムになりました。
最初から意図していたわけではないのですが、結果として自作小説の自作サウンドトラックという、なにから何まで自作自演のプロジェクトになりました(苦笑)
繰り返しのお詫びになりますが、歌唱についてはどうかご容赦ください。
ただ、エピソードと歌詞が呼応し、物語に奥行きが出るようにと苦心しました。
小説のエピソードを思い浮かべながら、聴いていただければ幸いです。
こんな拙い歌に耳をお貸しくださり、最後まで物語を見届けてくださった皆様、本当にありがとうございました。

(PS)
今書いてるのは、僕と同年代の男性の話です。
2作書いて、高校生は卒業です!(笑)
三人称小説だから、ちょっと安全か、心理的にw
10話くらいの読み切り作品を目指してます。
その時はまた、よろしくお願いします。

【小説】あの夏の光(全49話)

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